この記事は、コミュニケーションデザイン施策で用いるウェブサイトの改修に関わる社内パートナー向けに執筆した「コンテンツマネジメントとは?」という指針のようなドキュメントをアレンジしたものである。


現代のインターネット上におけるコミュニケーションは複雑だ。なにしろコンテンツの種類も、プラットフォームも、コンテンツを閲覧するきっかけや手段も様々になっている。コンテンツの摂取は昼夜を問わず行われる。

かつて Twitter と呼ばれた往来からは人々が分散して Bluesky や Threads、Misskey などに散らばり、メールや Slack、Discord、LINE、Instagram、facebook からは相変わらずリプライの通知が飛んでくる。Google Meet や Zoom でリモート会議をしながらチャット欄でリンクをやり取りすることもあれば、最近だと問い合わせをしたら人間ではなく LLM が回答してくることもある。デバイス 1 つあれば、誰にでも起こり得る状況だ。

そこでやり取りされるコンテンツは、URL やそれっぽいリンク機能は介するものの、必ずしもウェブサイトにアクセスするわけではなく、アプリが立ち上がる場合もある。ニュースや投稿記事・音楽・動画などメディアの種類は問わず、提供されていれば異なるプラットフォームで同一のものが摂取できる。情報に溢れるこの時代、マルチユース的な活用や競合の多い状況で配信されるコンテンツは、摂取される量もタイミングも利用者側に主導権があると言える。

コンテンツとは「アクションの元になる情報」

では、何が情報をコンテンツたらしめるのか?それは利用者にとって意味のあるまとまりになっているか、である。

コンテンツは「ストーリー」の中でアクションの元になる

意味がある、ということは利用者の特定のニーズを含んだコンテキストにおいて、満足・納得・不満といった感情を起こすなど、何らかの認知変容をもたらすことになる。例えばほしいものの情報を得て、購入に進んだのであれば、その情報は利用者にとってはコンテンツだと言える。

さらにその状況を詳細にすると、利用者がタッチポイントを経て購入というアクションに至るまでの流れはストーリーであり、その状況において情報はコンテンツになる。つまり、「コンテンツは『ストーリー』の中でアクションの元になる」ということである。

ストーリーは「アクションまでの流れ」

ここでは「ある利用者が巡る、アクションを起こすまでの認知と行動の一連の流れ」と言える。わかりやすい例を 2 種類示してみる。

例 1:複数のコンテンツを元にアクションが起こるストーリー

一連のストーリーで複数のアクションが起こり、最終的に認知が変容する。その過程で、アクションを起こす元になるものもコンテンツとなる。

ロボット掃除機の購入の場合
  1. 名前を知っていたルンバについて性能を調べ、ロボット掃除機というジャンルや性能差を知り、
  2. ジャンルである「ロボット掃除機」のおすすめ一覧を見て、他ブランドやトレンド・より広い選択肢があることを知り、
  3. Anker や Panasonic の製品も気になったのでさらに調べ、やっぱりルンバが欲しいと感じ、購入した。
フォーマット
  • 「(タッチポイントで)n1 を得てバイアスを持ち」、
  • 「(タッチポイントで)n2 を得てさらに知識が増え」、
  • 「(タッチポイントで)さらに詳しい n3(+ n4, n5 … etc)を追加で得ることで、認知変容が起こり、アクションした」。

※nx がコンテンツ

よくあるのはこのケースに近いものではないだろうか。筆者も電化製品や PC 周辺機器など、選択肢や競合が複数あるものを購入する場合、n がいくつになるかはケースによるが、心当たりがある。見た目やスペックをすべて希望通り叶えてくれるメカニカルキーボードや、PD 充電対応 4K ディスプレイを選ぶのは実に面倒であるが、金額的には比較せざるを得ないはずである。

また、このケースで期待値よりも高い結果を得られた場合、アクションが発生した対象のファンになる可能性もないだろうか。後述の例 2 のようなケースを増やすためにも、良いコミュニケーションやコンテンツを心がけたいものである。

例 2:強いコンテキストによって起こる 1 コンテンツ・1 アクションのストーリー

例 1 と比べて、ブランドのファンであるなど、単純で強いコンテキスト下において起こるストーリーも考えられる。

新しい iPhone を買う場合

「iPhone の広告を見てカメラに期待し、Apple Store に見に行った。(または、購入した。)」

Apple iPhone 6 広告
コンテキスト

Apple のファン、または Macbook Pro や iPhone を日常的に使用していて、Windows よりも Mac 派で、Android の利用は考えていない。という強いコンテキストが既にある状態の人

フォーマット
  • 「(タッチポイントで)n を得て」、
  • 「認知変容が起こり」、
  • 「アクションした」

※n がコンテンツ

Apple による iPhone の広告であるというコンテキストと「iPhone 6 で撮影」という簡潔なワーディング、鮮明な写真の組み合わせにより、iPhone を構えた様子やカメラアプリを想起させるグラフィックがなくても、新しい iPhone ではカメラのスペックが向上しているという期待感を表現できている。

身も蓋もないが、ファンにとってパッと見が良いというのは、とてつもなく強い状況である。筆者も昨年、グッドスマイルカンパニーの THE 合体 マイトガイン千値練の RIOBOT EX-ラインバレルなど少し高めのフィギュアを数点購入したが、予約完了までは秒であった。何らかの言語化可能な理由はあるはずだが、一瞬で思考が完了し、アクションまで至ってしまう「好き」や「良さ」は、何より強いと感じている。

コンテンツマネジメントとは?

本題である。特定の CMS や手段の話ではなく、理論的な話である。

本記事では 「認知変容とアクションを起こすために、理想的なストーリーとマーケティング視点を元にコンテンツの構造を考え、ステークホルダーに向けた発信や回遊経路の最適化をねらうこと」 と定義したい。

より詳細に記述すると「人とコンテンツを結びつけ、認知変容とアクションを起こすために、ストーリーとマーケティングファネルを元にコンテンツの構造化を行い、ステークホルダーのタイムラインに向けた適材適所なコンテンツ発信の最適化をねらうこと」である。

マーケティングファネルは「行動の目安」

ペパボでは、マーケティングファネルを用いている。一般的には顧客が商品やサービスの申し込みや購買に至るまでの行動や状態を段階的に図示したものである。これをコンテキストに合わせて調整し、使いやすくしている。

ペパボマーケティングファネル 2.5

こうした行動の目安を見ながら、ストーリーがフィットするようなタッチポイントの設計と、コンテンツの構造化が必要だと考えている。

顧客を想像するために、マーケティングファネルとストーリーを設定する必要がある

現代のコミュニケーションは非同期で時間を問わず、短時間での訴求が求められたり、選択肢として出てくる競合との差別化や露出強化が前提となる。そのためステークホルダー側に主導権があり、置かれている状況を考える必要がある。

そこでマーケティングファネルとストーリーを組み合わせることで、どのようなコンテンツが必要になるか、想像することができる。

例:実際にストーリーを設定してマーケティングファネルに当てはめる

前述のロボット掃除機のストーリーを例に、ペパボマーケティングファネルへ当てはめてみると、以下のようになる。

ロボット掃除機ストーリー顧客ステージ ファネルステージの定義マーケティングの目的
名前を知っていたルンバについて性能を調べ、ロボット掃除機というジャンルや性能差を知り、[興味・関心]
(があるかどうか)
[潜在顧客]
サービスに興味、関心を持っている。ペパボやペパボのサービスについて知らない。
理解・共感を深める。 ペパボやペパボのサービスを知ってもらう。
ジャンルである「ロボット掃除機」のおすすめ一覧を見て、他ブランドやトレンド・より広い選択肢があることを知り、[比較・検討]
(するかどうか)
[見込み顧客]
購入を考え始め、比較検討をしている。 ペパボとの接点がある。ペパボのサービスを試用する。
導入を検討してもらう。
Anker や Panasonic の製品も気になったのでさらに調べ、やっぱりルンバが欲しいと感じ、購入した。[購入・申込]
(するかどうか)
[新規顧客]
購入や申込をする。契約を開始する。
関係を深める。 満足してもらう

ストーリーが興味・関心のステージから始まっていて、比較・検討を経て、購入に進んでいることがわかる。ストーリー上で役割を持てる(=タッチポイントになる)コンテンツを設定することを、「コンテンツの構造化」ということもできる。

以上から前述のように、コンテンツマネジメントは 「認知変容とアクションを起こすために、理想的なストーリーとマーケティング視点を元にコンテンツの構造を考え、ステークホルダーに向けた発信や回遊経路の最適化をねらうこと」 と定義したい。

「導線」ではなく「経路」である

主導権を握っている利用者に対して、「導く」というのはおこがましい。点であるコンテンツと、そのつながりである線をたくさん設けることによる多面化を図り、可能な限り回遊する気になる状況をつくることが目指すべき方向である。

ペパボデザインスキームとコンテンツマネジメント

ペパボではデザイナーがデザインする対象と、それらの構造をペパボデザインスキームとして定義している。このスキームではコミュニケーション領域でのデザイン対象がコンテンツであること、その後コンテンツが人に届き、認知変容とアクションを経て Value が生まれるまでを示している。

コンテンツはタッチポイントを通して、アクションをとる人に届く。
人に届いた結果、認知変容とアクションが起こり、Value が生まれる。

また、コンテンツマネジメントについて以下であると定義した。

「認知変容とアクションを起こすために、理想的なストーリーとマーケティング視点を元にコンテンツの構造を考え、ステークホルダーに向けた発信や回遊経路の最適化をねらうこと」

つまりペパボにおいてのコンテンツマネジメントは、デザインスキームの認知変容とアクションを起こすパートを担い、Value を生み出すための手段と捉えることができる。

「CMS =コンテンツマネジメント」ではない

検索結果として出てくるコンテンツマネジメントに関する情報は、WordPress をはじめとした CMS の紹介や Tips の記事が多い。ここで気をつけないといけないのは、CMS =コンテンツマネジメントではない、ということだ。

CMS の正式名称は「コンテンツマネジメントシステム」である。つまり、作成や管理を行うための具体的な手段になる。コンテンツの構造やつながりについて考えると、複数の情報に一貫性や共通性、差分や異なる点を見つけ、その結果としてプロパティや必要なコンテンツの型であったり、それらがサイト単位のボリュームとしてまとまっていく。CMS は、こうしたコンテンツのありようを人間が定義・管理するために、カスタムフィールドやコンテンツタイプといった具体的な機能として実装しているシステムである。

現実世界の物事に向き合う

デザイナーがまず向き合わないといけないのは、デザインを行う現実世界の対象だ。

現実世界の物事を中心にコンテンツ構造を設計しなければなりません。 fig. マイク・アザートン、キャリー・ヘイン『DESIGNING CONNECTED CONTENT』(2022)

対象のことを知らずに、管理手段である CMS の設計も、出力結果であるウェブサイトの構造も、考えることはできないからである。逆にそれができているならば、CMS の設計結果を API で配信して複数のウェブサイトやアプリ・サイネージに転用することも可能であるし、その過程で得た情報を使ってパンフレットだったり、よりブランドの形成に近いレイヤーのデザインもできるかもしれない。

また、CMS は WordPress 以外にも Movable Type や Drupal 、ヘッドレス CMS など、選択肢がいくつもあるし、そもそも簡易な CMS で良いのであればノーコードツールも選択肢に入るはずである。コンテンツマネジメントは手段を用いて制作を行う前からはじまっている。

対象を知ることで、いきなり特定の CMS を用意するのではなく、より良い選択をしていけたらと思う。